2007.01.25 遊ぶ金欲しさに老女とその長男を殺害

東京都杉並区に住む大学生の志村裕史(ひろし)被告(当時21)は2007年1月25日午前3時頃、裏の家に住む無職女性(当時86)方で、女性と会社員の長男(当時61)をナイフで刺殺し、現金約47000円や貴金属などを奪った。凶器の軍用ナイフは、コレクションとして保有していたものだった。志村被告は朝になってクレジットカードを使い、杉並区内のコンビニエンスストアのATM(現金自動受払機)から現金を引き出そうとしたが、暗証番号が正しく入力できなかったため、未遂に終わった。コンビニから不審者として通報があり、2月10日に逮捕された。3月2日、強盗殺人容疑で再逮捕された。志村被告は、日大理工学部に在籍する3年生だが、授業は休みがちで、2年前には病気を理由に1年間休学するなどしていた。後に大学から除籍されている。また志村被告は事件発覚から3日後、警視庁荻窪署員を自宅に呼び、「家の窓ガラスが割られた」と訴えていた。現場周辺では1月下旬、マンションと民家でパチンコ玉を撃ち込まれて窓ガラスが割られる被害が発生していた。(無期懲役判決リスト2009年度)
2007年9月21日の初公判で、志村裕史被告は「2人に殺意は抱いていなかった」と起訴事実を否認、自白を強要されたと訴えた。弁護側も「殺意はなく、被告は心神耗弱だった」と主張した。一方、検察側は、志村被告が捜査段階で容疑を認めていたことを証明するため、取り調べの様子を録画したDVDを証拠提出し、採用された。10月9日の公判では、検事による3月23日の取り調べを撮影したDVDが上映された。45分間のDVDの冒頭で志村被告は「間違いありません」と強盗殺人の容疑を認めた。その後「明確な殺意はなかった」と殺意を否認したが、「胴体めがけてナイフを振り下ろしたのは殺意がなければできないので、調書を訂正する必要はない」と述べた。警察官の自白強要は「ありません」と否定した。「お金が欲しいだけでなく、ゲーム感覚で人の家に侵入してみたい気持ちもあった」と語り、母親の手紙で自白に転じた心境も明らかにした。「取り返しのつかないことをした。どう償っていいか分かりません。悪いのはすべて私で、家族を責めないでほしい」と声を震わせる場面もあった。弁護側の請求により精神鑑定が行われ、2008年3月の公判で鑑定医が「自分の精神をコントロールできない状況で責任能力はなかった」と報告した。検察側は改めて精神鑑定を請求。2008年12月17日の公判で鑑定医が「犯行前後を通じ、責任能力に問題はない。コミュニケーション能力の欠如はなく、精神障害は全く認められない。弁護側請求の鑑定結果は誤っている」とする鑑定結果を報告した。弁護側は3度目の精神鑑定を請求したが、地裁は却下した。3月27日の論告求刑で検察側は、争点の責任能力については犯行前後にも普通の社会生活を営んでいたと指摘。「現場で偽装工作をし、凶器のナイフを犯行後に捨てるなど証拠隠滅もしている。警察に虚偽の説明もしている。犯行時の記憶も十分あり、完全責任能力があった」と、完全責任能力があると述べた。そして「パチンコ代など遊ぶ金欲しさの冷酷、残虐な犯行。被告人質問で『被害者に対する罪悪感はない』と言い放るなど、反省していない。落ち度のない2人の命を奪った犯行は強い非難に値する。更生を期待できず、極刑を回避すべき事情はない」と述べた。5月18日の最終弁論で弁護側は、責任能力について「犯行当時、被告には責任能力はなかった。責任能力があったとしても、限定的。混乱のなか結果的に左胸にナイフが刺さったため殺意もない」と主張。「心神喪失による無罪を言い渡すか、責任能力を認めたとしても刑を軽くすべきだ」と述べた。志村被告は最終意見陳述で「反省している」と述べた。判決で植村稔裁判長は「事件当時の被告の行動などから、完全責任能力があったと認められる」と判断。弁護側の「被告は脳の機能的障害を負っており、犯行時は心神喪失か心神耗弱の状態だった」との主張を退けた。その上で「被告はあらかじめ強盗殺人を計画していたものではない。若年で前科はなく、今後改善更生の可能性がないとはいえないことなどを考慮すると、死刑とするのはやむを得ないとはいえない」と述べた。(無期懲役判決リスト2009年度)

  • 最終更新:2010-08-03 01:28:45

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